この30年、多くの企業に入り込み、「目標による管理」だの「競争戦略」だのとお題目を唱えて回ったすべての経営コンサルタントを代表としてお詫びします。御社をつぶしたのは私です。
”はじめに”ではこんな調子で著者の謝罪から始まっている。
実体験に基づきコンサルティング会社のおかしなところや悪いところ、なぜそんなことが起こってしまうのか、どうすれば防止することができるのかも含めて著者の言葉で語られている。
著者はコンサルティングファーム出身なのでその視点が中心ではあるものの、依頼主=企業側の姿勢や考え方についても警鐘を鳴らしている。
例えば、考えることを放棄してコンサルに丸投げの役員、コンサルを魔法の杖と勘違いしている経営者、計画を立てることで満足し肝心の実行フェーズで役に立たないマネージャーなど挙げるときりがない。
ただ、著者はコンサルティング会社が無意味と言いたいわけではなく、使いようによって十分効果を発揮するという点も後半で補足している。
自身が通っていた経営大学院の講師はコンサル出身者が多く、成功と失敗両方の話を聞かせてもらったが本書の内容と通じる部分もあり日本だけでなく海外含め同様のジレンマがあるのだと感じた。
本書での学びはいろいろあったが、手段の目的化に陥らないこと、心と心の対話なくして経営(リーダーシップ、マネジメント)はできないことが一番重要だと感じた。
その他、各章の振り返りメモは以下にまとめておく。
書籍情報
著者 カレン・フェラン
発行 2014年3月
申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。
Introduction 大手ファームは無意味なことばかりさせている
第1章 「戦略計画」は何の役にも立たない
ビジネスの成功は、業界の将来を予測し市場の方向性を決定づけたりすることではなく、大きなチャンスを見逃さずにとらえること―とくにまだ誰も気づいていないうちに―にかかっている。マイクロソフトもアップルもグーグルも、業界の将来予測をすることではなく、さまざまなビジネスチャンスを見出し、それをものにしたからこそ、マーケットリーダーになれたのだ。
大きなチャンスをつかむには、企業の自己発見にできる限り多くの従業員を巻き込む必要がある、会社は従業員の集合体なのに、その人たちの感情や精神を置き去りにして、頭だけでどうやって自分が何者であるかを知ることができるだろうか?
第2章 「最適化プロセス」は机上の空論
危険なのは、ツールそのものを解決策と思ってしまうことだ。実際、方法論の多くはそのような考えのもとに発展した。もともとは人間のために開発された方法から、いつのまにか人間的な要素が取り除かれてしまったのである。
どんなツールや方法論を用いるかは、たいした問題ではない。人間こそ問題の原因であり、解決の手立てなのだ。
- プロセスの一部のみを改善してもほぼ意味がない
- 全体の中でなにをどうすべきかを考え、施策に落とし込む
- フレームワークを振り回すよりも単純な話し合いの方が効果を発揮する
- 業務プロセスがうまくいかない原因
- 相互不信
- 部門間での目標の対立
- 拙速
- バカだと思われたくない
- 完璧を求めるあまり出来上がってから他人に共有しようとしてしまう
第3章 「数値目標」が組織を振り回す
従業員は評価基準に合わせようとする!評価基準を捜査してしまうことすらある!
指標スコアカードは自動車のダッシュボードと同じ。ダッシュボードだけ見て道路を見なければ、衝突してしまう!
第4章 「業績管理システム」で士気はガタ落ち
- 目標管理制度は煩雑かつ考課者ち被考課者の相性次第で大きく変わる
- 部署や職種によっても基準が変わり相対評価が機能しない
- 手間ばかりふえ、運用効率が悪い
- 一見公正に見えて実は不公正なシステムと言える
- 98%の従業員が平均以上と思っている
- ということは評価が平均以下だと落胆されやすい
- 自部門の従業員の考課を挙げるため、マネージャー同士で争いが起きる。それ事態が不毛で非効率(たった数千円/月のために、、)
- 業界平均より少し上の給料をもらえたほうが幸せ
- BCSでランク付けを行うより経営陣と従業員が協力し会社の目標達成に向けてどのように取り組むべきかを一緒に考えた方がよい
第5章 「マネジメントモデル」なんていらない
もし部下との付き合い方で悩んでいるなら、アドバイスをもらえる場所や本や講座はいくらでもあるだろうが、やはり本人と直接話し合って意見を訊くのが、最も効果的な方法と言えるだろう。
- マネジメントのコツ
- 気にかけていることを態度で示す
- 伝わるように伝える
- 臨機応変に、柔軟に、すばやく対応する
- 先手を打つ
- スティーブン・コヴィは「習慣」を3つのカテゴリーに分類した
- 私的成功(依存状態から自立し、みずから効果を生み出す)
- 公的成功(ほかの人たちと連携して成功する)
- 再新再生(進歩するための時間を待つ)
第6章 「人材開発プログラム」には絶対参加するな
もっと重要なのは、社員のキャリア開発が本人以外の者たちの手に委ねられることなく、社員自身が責任をもって自分のキャリアを形成していけることだ。
- 一度貼られたレッテルはなかなか剝がれない
- 優秀な従業員は失敗すらも魅力に見えてしまうことがある
- 悪いレッテルを貼られた従業員はそれにより、もっとダメになってしまう
- 従業員を単純なクラス分け(A,B,C)をすると平均人間ばかりになってしまう
- 業績が悪い理由は「能力」より「環境」要因が大きい
- 会社のカルチャー×人間関係×本人の希望や興味×スキルや強みの重なる領域で力を発揮する(前提として職務要件も勘案する)
第7章 「リーダーシップ開発」で食べている人たち
では、どうすれば会社の将来のリーダーを見出し、その才能を伸ばすことができるだろうか?これは会社が生き残っていくために、どうしても欠かせないことだ。「やる気」「情熱」「ひたむきな追求」「野心」「崇高な目的に対する使命感」など、表現は何であれ、
利己的な目標であれ、リーダーは目標を達成するために不断の努力を重ねる。そういう人間が職場でも際立っているだろう。仕事をきっちりやり遂げ、積極的にチームを率いる人や目立つ存在でみんなから頼りにされている人。そういう人間がいるはずだ。
- 次々と新たなリーダシップ本やコンサルティング、研修メニューが登場しているが言っていることは昔から変わらない
- リーダーシップに絶対解はない(適応課題が主のため)
- 画一的なスキルや利他的な精神を完璧に持ち合わせている必要もない
- コンピテンシー開発は金太郎飴人間を量産する
- 強みを伸ばしたほうがよい
- 歴史的なCEO(スティーブ・ジョブズなど)はむしろ変人やサイコパスのほうが多い
第8章 「ベストプラクティス」は”奇跡”のダイエット食品
実際、企業経営は科学ではないから「答え」などないし、ましてやビジネスの「ソリューション(正解)」など存在しない。にもかかわらず経営理論は、多数の方法論やあらかじめ用意されたソリューションでできており、成功への手順を指示するのだ。
ビジネスも生活と変わらない。それどころか生活そのものだ。健全なビジネスを営むために必要なものは、健康的な生活を送るために必要なものと同じだ。流行りの方法や「これさえやれば」の簡単なステップは、どちらに対しても効き目はない。
企業の経営の行き詰まりについてはコンサルタントにも大きな責任があると思うが、企業の側にも落ち度がある。多くの企業はコンサルタントを雇って、自分たちの代わりに考えてもらおうとする。
- 人間性の向上こそが重要
- 社員同士の交流を改善する
- 判断力を強化する、または考え方を広げる
- 社員が生活を楽しめる環境をつくる
- 顧客の生活を豊かにする
- まやかしの専門用語をやめる
- だれにでもわかる平易な言葉を使う
- コンサルティング案件の成功の秘訣も、これまた、人と人の対話と良好な関係が築けるかどうか
おわりに
ドグマ(定説)を鵜吞みにせず、自分たちのやろうとしていることがどんな結果をもたらすか、しっかり考えてみること。白紙の状態からスタートするのが不安なのは私にもわかる。たしかに不安なことにはちがいない。しかし、あなたの周りにいる人たちと素晴らしいチームを作り上げれば、きっと道は開けるはずだ。問題を起こすのが人間なら、それを解決できるのも人間。実に単純明快ではなないか。