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読書記録と日常のあれこれ。

キーエンス解剖 最強企業のメカニズム|読書メモ

時価総額14兆円超え、平均年収2,183万円、営利55.4%と国内屈指のBtoB企業キーエンス自己資本比率も93.5%と競合他社や業界平均より断然高い。
何をやっていて、どうすごいのかがわからなかったけどこの本を読んでちょっとだけ理解を深めることができた。

この本はキーエンス公式ではなく日経新聞の記者の方が関係者取材をもとに作られたものなので情報不足はあると思う。それでもキーエンスという企業を理解するという意味では有益な内容だった。

結論、なにか特別なことは(本を読む限り)やっていない。すごいのは、人間の思考と行動を理解した上で、どうすれば動いてくれるのか?どうすればより成果を上げられるのか?という点にスコープして仕組み化をしているところ。
その上で、着実に実践させるためのKPIや評価制度、インセンティブがあり、これらも常に進化を続けている。

言葉にすると簡単だけどなかなか真似できない。真似できないからこそ、創業当初から愚直に続けているキーエンスはめちゃくちゃ強い。これはポジショニングや突飛な戦略という外から見える強みではなく、内部に蓄積されていく人財起因の強みなので一朝一夕では身につけることはできない。

最近の業績を見るとコロナ禍以降、国内売上は若干低迷したものの、海外化を加速していてトータル的には成長を続けている。

当たり前なことを当たり前にやり、変化をいとわず、短期でなく中長期を見据えた企業経営を推進しているからこそ今があるのだなと納得した。

営業視点でも勉強になるポイントはたくさんあったのでメモに残しておく。

書籍情報

  • 著者 西岡杏
  • 発行 2022年12月26日

章立て

  • プロローグ 語りかける化石たち
  • 第1章 顧客を驚かせる会社
  • 第2章 営業部隊が「先回り」できるわけ
  • 第3章 期待を超え続ける商品舞台
  • 第4章 「理詰め」貫く社風と規律
  • 第5章 仕組みの源流に「人」あり
  • 第6章 海外と新規で次の成長へ
  • 第7章 「キーエンスイズム」の伝道師たち
  • おわりに

メモ

  • 商品の粗利は約8割
  • 顧客の深層ニーズに迫り、アイデアを商品化して解決する。それは世の中にまだないものなので高く売れる
  • 社員一人あたりの売上高は8,710万円(22年3月期)。競合他社の約2倍
  • 圧倒的なスピード感。提案、デモ、納品など全ての過程でスピードを重視する。顧客のアクションを「待つ」ことなく興味の兆しが見えたら即アプローチし、自らのペースに巻き込んでいく
    • 商談の主導権を顧客に渡さないという点はすごく重要。顧客を尊重しつつ、最善な結果を目指してハンドリングするのは営業の仕事
  • 顧客とのコミュニケーションを通じて情報を集め、SFA等のDBに蓄積。社内で共有することでチャンスを逃さず、勝率を上げる
「待ち」の姿勢ではなく先へ先へとさまざまな想定をして顧客に伴走し、顧客の仕事のサイクルを回す。顧客の潜在ニーズを具現化して顧客の仕事のスピードを上げ、質を高める。
「石になって永遠に姿を変えられなくなるような事態には絶対に陥らない。常に変化し、進化し続ける」
キーエンスの営業担当者の商品知識もずばぬけている。現場で競合の商品の使い方すら親切丁寧に教えてくれるので、ついつい相談してしまう」

どんな業種、業態でも持っていたい姿勢。何かあったら相談したいと思ってもらえる関係性が大事

先回りして本質を探り当てて解決すれば、大きな価値を提供できる。顧客も気づかない潜在需要こそ、キーエンスにとっては宝の山なのだ。

大半の営業は顧客に言われたことをそのまま検討してしまう。それで問題ない場合もあるが、それだけでは不十分か実は検討違いの課題だったりする。なので、顧客に対して質問を重ねたり、仮説を立てて確認し、真因に迫る動きが必要になる。これは営業経験だけで身につけるのは難しいので、常に、目的意識と疑う意識を持ち、深掘りするクセ付けが必要。営業以外でも活かせるので仕事の訓練として日々意識しておきたいスキルでもある。

ロープレを実施するのは、新製品発表前などの特別なタイミングだけではない。10~15分ほどで手短に、だが毎日のように繰り返すのがキーエンス流。まるで歯を磨くように、当たり前にやる

「歯を磨くように、当たり前にやる」ここがめちゃくちゃ難しい。ロープレをやること自体が目的になってしまったり、習慣として根付かずに終わってしまったりする。キーエンスでは、ロープレをスキルアップの手段として割り切り、基礎の「型」を学ぶ機会として浸透させている。そのうえで、相手の状況によって内容を変える「応用」を身につけていく。

「数をこなさなければ質が生まれないと、キーエンスで学んだ。」

これもまさにでどんな天才でもいきなりうまくはいかない。地道に数を重ねていくことで質が上がる。

成果を最大化するためには、商談の質の高さと回数のかけ算が大事になる。そのためには時間を意識することが欠かせない。外報には、商品をわかりやすく説明するための「デモ」の有無も記載する。これが後に営業担当のKPIとして集計されていくわけだ。

成果があがる営業パターンがわかっているからこそ適切なKPIが立てられる。これも業界問わず使える考え方だと思う。

1日の最後には、外報を使いながら商談の状況と今後の方針について、上司とすり合わせる。当日の成果だけではなく、あらかじめ書き込んでおいた翌日以降のミッションや訪問先についても打ち合わせおく。

段取りとすり合わせ大事。商談後すぐにネクストアクションを決めておくことで案件が曖昧になりにくい。行動計画も立てやすくなり、結果質も上がる。

「行動していたとしても、書かなければやっていないのと同じ」

営業として売上を上げることだけでなく、プロセスを残すことにいかに重きを置いているかがわかる一言。営業は個人商店化されやすい職種ゆえ、情報の共有化と形式知化が重要になる。これにより、一部の売れっ子営業に頼らなくても成果を上げられるチームに育つ。一朝一夕では真似できないため、組織としての競争優位性があがり、圧倒的ナンバーワンで居続けることができる。

営業成績がいい人を「あの人は営業がうまい」で終わらせないのがキーエンスだ。「Aさんが受注を獲得した商談はこういう条件だった」という成功パターンを導き出し、それを別の営業担当者にも実践してもらう。

SECIモデルを愚直に実践している。だから強い。

キーエンス型のコンサルティングセールスでは、ここで”ニーズの裏のニーズ”を探る。「なぜこれが必要なのか」「これを導入してどんな成果を望んでいるんか」を顧客に問うわけだ。

これも間違いない。でも、いざ営業先に立つと顧客の言っていることがそれっぽく聞こえてしまったり、質問を重ねるのが失礼になるのではと思ってしまったりする。そんな気持ちは捨てて、顧客の気持ちに配慮しながら「なぜ?」や「どうして?」を繰り返すことで、顧客も気づいていなかったニーズを掘り下げることができる。営業の初期段階でこれができていれば信頼度があがり受注にもつながりやすくなる。また受注の先にある顧客の成功に対してもしっかりと結果を残すことにつながる。

「営業のヒアリング力とニーズカードの質は直結する」「これが欲しい」と顧客が真正面から言ったニーズだけでなく、商談中に顧客が何気なく発した言葉が書き込まれることもあるという。

ヒアリングした情報は宝の山。それらをニーズカードとして商品企画にフィードバックすることで新商品開発に活かしている。これも仕組み化と定着がすごい事例。

場合によっては商品のリリース時期を遅らせることもあるという。時期を優先して中途半端な価値の商品を提供するよりも、価値の最大化を大事にする。キーエンスではこれが、当たり前となっている。

売上や顧客満足を考えるリリース時期を遅らせるという判断をするのは相当難しいと思う。でも、それらをしっかりと行えるということは顧客に理解、納得してもらった上でだと思うのでその方向に持っていいけるコミュニケーション力がすごい。

「早ければ明日にでも届く」というイメージは、顧客に「まずはキーエンスに相談してみよう」と思わせる効果がある

キーエンスの顧客は工場メインなのでここはめちゃくちゃ強い。工場のラインがとまるとそれだで売り損がすごいだろうから。といっても固有性がある事象ではなkぅ他の業界でも優位性になる。期待以上のスピードは顧客満足や信頼につながるので、営業プロセス、構築、運用どのフェーズでも意識したいところ。

「利益を社員に還元する仕組みが計算式まで含めて公開されているので、効率性・合理性を追求することで自分の所得が増えると社員全員が理解しており不平不満は驚くほど少ない」

かなりオープンな印象。なんだかんだ言ってもおカネというインセンティブは強い。

「私は営業職として入社しましたが、先輩と何かをしゃべるために『その目的は』と聞かれるんですよね。今日どこへ行くのか、そのために何をするのが一番いいのか、日常的に投げかけられていました。これを高頻度で繰り返すことで、自然と今日の目的はなにかを考えるようになるのです。こうした会話は、代々受け継がれるキーエンスの伝統です」

一見するとマイクロマネジメントに見えるけど社歴や実績によってチューニングしていそう。いずれにせよ、目的第一主義が染み付くのはいいことだし、組織として強い。

常に「こういうことを聞かれるかもしれない」と意識しながら会話する

社内外関わらずで必要なスキル。論理を省略せずに相手に伝わるように説明しないと動いてくれない。もちろん感情とのバランスも大事。

「ナレッジの共有はかっこいい。だからみんなする」

他の章にもあったけど情報の囲い込みはダサいという考え方が根底にある。これはもっと真似たい。

社内の仕組みは「性弱説」に基づいている

人は弱いものだという前提に立った仕組みとのこと。性善でも性悪でもなく性弱というところがうまい。この前提をもとに仕組みを組むことで「やるとうれしい」「やらないとツライ」というポイントを散りばめてるんだな。すごい。

今の仕組みでは難しいものは、新たな仕組みをつくる。そして、やってみてうまくいかなかったり、時代にあわなくなったりした仕組みはやめる。それも感覚的に判断するのではなく、根拠のある数字を使いながら合理的に判断していく

簡単に書いてあるけどこれをしっかりやるのは相当難しい。意識や仕組みはわかったけど実際にどうやっているのか知りたい。

「一流の医者は、人の命を救うために常に最新の医療知識や技術を学び、習得して、最善の治療をする。リード電機が目指す営業とはそういうことです。なので、従来どおりの飛び込み営業など汗をかきながら体力を使う営業とか、接待などの顧客の情に訴えて買ってもらう営業がしたい人は、リード電機は受けないでください。頭を使う営業。常に勉強し続けることをいとわない人は、そのまま残って入社テストを受けてください」

キーエンスの前身、リード電機時代に人事担当者が中途志望者に掛けた言葉。この時点でこんなにしっかりとした営業哲学を持っていたことがすごい。今年バズワード的につかわれていたリスキリングを当たり前に推奨してやり続けている。

誰が言ったかではなく、何を言ったかだ

創業者 滝崎さんの言葉。芯を喰っているし創業者がこれを言ってくれるのは従業員として心強い。

だが、「普通じゃない」と感じる部分があった。仕組みをつくったら、その仕組が役に立つように本気で運用を徹底するという、「最後の数センチメートル」の差だ。一言でいえば手を抜かないのだ。そして、全員がそれをやる

キーエンスの強みはこれに尽きる。