アメリカのベンチャーキャピタル業界を歴史的視点から掘り起こし、その変遷について事例を交えながら説明されていてわかりやすい内容だった。過去を知ることで未来がみえてくる(予測に役立つ)というのも納得。アメリカの経済成長にはスタートアップとベンチャーキャピタリストの存在は不可欠でリスク資本と起業家精神を後押しする土壌を国として耕してきたからこそなのだということを知ることができた。日本でも2022年をスタートアップ創出元年と位置づけて今後5年でスタートアップを10倍に増やすということを発表してたけどこの本を読んで、アメリカに太刀打ちできるようになるにはだいぶ時間が掛かるのではないかなという感じがした。取り組み自体はめちゃくちゃよいことなのでそれだけでも一歩前進だけど。
章立て
- はじめに 歴史を知る重要性
- 第一章 はじまりとしての「捕鯨」
- 第二章 「リスク資本」の起源
- 第三章 立ち上がる「プライベート・エクイティ」
- 第四章 市場か、政府か
- 第五章 「リミテッド・パートナーシップ」の構造
- 第六章 シリコンバレーの勃興と投資スタイル
- 第七章 テックビジネスの隆盛とエコシステムの進化
- 第八章 「ドットコム」・バブル
- エピローグ ベンチャーキャピタルの未来
メモ
- ベンチャーキャピタルの起源は捕鯨船で投資モデルが酷似している
- ハイリスク・ハイリターン
- 資金提供者である富豪と航海に出る捕鯨船、その仲介役=VCという構図
- ロングテールのビジネス
- VCから資金提供された企業の大多数は失敗し、ロングテールで見日側に裾野の長い利益分布を形成する
- 数少ないヒット企業が損失を出したり平凡なリターンに終わったりした投資を補う
- 捕鯨船も同じで数十、数百の捕鯨船に投資し、その内1隻でも大漁で帰ってくれば十分儲けが出るという仕組み
- 成功した捕鯨船は次回の航海でも資金が集めやすく、よい人材、よい設備にも投資ができるので成功確率を上げることができる
- 仲介役は捕鯨船の情報をくまなく収集していて資金提供者と捕鯨船をつなぐことでリターンを得ている。また、捕鯨船が大量だった場合、◯%のフィーも手に入るため、それだけで考えられないほどの対価を得ることができる
- これは現在のVCのビジネスモデルとかなり似ている
グレイロックが1965年に発行した目論見書の投資戦略「投資方針の総論」
一、あらゆる有望な分野で、開発資金を必要としている若い成長企業 二、すでに事業を軌道に載せている中小企業で、新たな取り組みに乗り出したいと考えたり、外部からの資本を求めて最初の一歩を踏み出そうとしたり、あるいは怠慢な創業者から経営支配権を奪取しようとしている会社 三、新しい製品、新しいプロセス、新しいサービス、あるいは新しいアイデアを使って大成功をもくろむ新しい会社 四、本来価値よりも安価に評価されており、業務上の喫緊の問題を改善できれば大幅な上昇が期待できる有価証券
「具体的な投資の特徴」
一、投資を求められている企業は、ずば抜けた能力を有する清廉潔白な人々によって経営されているか 二、資本参加の財務基盤は、大幅なキャピタルゲインを得る現実的な機会を提供するか 三、求められた金額を投資すれば、スタートアップ企業への本格的な経営参加権を得られるか 四、経営陣を含む他の投資家パートナーとは、目的を共有できそうか 五、市場環境を考慮して、売上高の驚異的な伸びが期待できるか 六、新会社の場合、製品開発または製造工程が少なくとも初期の試作品段階まで進んでいて、特許または高度な技術上のノウハウのいずれかによって、製品の完成まで権利が適切に保護されるか 七、投資家による事業へのアドバイスという形で重要な役割を果たすと、状況が大きく進展する余地があるか
ベンロックの投資基準
a 経営陣の質と能力 b 一製品への応用にとどまらない技術進歩 c 健全な事業計画 d 利益率目標 e 現金化への道筋が見えているか
- 「人に投資する」アーサー・ロックのスタイル
- 優れたアイデアや製品は簡単に手に入る。しかし、優れた人材はなかなか見つからない
- 何をやるかよりも誰が(誰と)やるかを重視
デイビスの正しい人材を見極めるための6つの基準
一、誠実さ 二、モチベーション 三、マーケット志向 四、スキルと経験 五、会計能力 六、リーダーシップ
- 「市場に投資する」ドン・バレンタインのスタイル
- ”とにかくまだ見ぬ魅力的な市場を見つけてください、そうしてその市場で何倍にもなりそうな企業をつくってください”
- 市場評価は難しい。細切れの情報を自分で繋いで模索する
- セコイア・キャピタル
- バレンタインの活動はのちにアップルやグーグル、ヤフー、初期のインスタグラムなどに投資したしたセコイア・キャピタル設立のきっかけになった
- 初期はセコイア自身の資金調達に苦戦した
- 初期は人脈を辿って投資先を探した
- リスクとリターンのトレードオフを管理するため、段階的に資金提供を行っていた
- 必要であれば資金提供の停止もためらわなかった(損切り)
- アップルへの初期投資判断にあまり戦略性はなかったけど宝くじ的に当たって莫大な利益をもたらしたというのも面白いエピソード