何かを知りたいとき、それを「知らない(not knowing)」ままでいる状態はつらい。つらい状態はさけたいが、人として生きる以上、すべてを知ることは不可能だ。だから私たちは答えを知る人のほうを向く。専門家、リーダー、その他の知っていそうな人。一方で、自分に多少なりとも知識があるときは、その知識が自分の手から消えていくことを恐れる。私たちは神経学的に、予測のつかないものを避け、確実なものを好むようにできているのだ。曖昧な状況、不透明な状況は、私たちに無力感を抱かせる。恥ずかしくうしろめたい気持ちにさせる。
年齢を重ね、「知っている」ことが増えてくると、「知らないこと」への耐性が低くなる。「知らないこと」は自分の至らなや無知と向き合うことになるので、それを避けたくなってしまうのは人間の本能なのだと本書では説明されている。
ただ、「知らないこと」の本質を理解することで、見えてくる世界がある。
それは、崖っぷちに立たされている状態と似ていて、安全な場所へ戻りたくなる衝動との戦いだ。不安や恐怖を認め、失敗することを恐れずダイブできるかどうかが分かれ道になる。「知らないこと」は恥ずかしいことではなく、新たな知との出会いの起点となり、それは自分自身だけでなく、チーム全体を良い方向に導く。
知っているフリや知っていることで安心するのはやめて、知らなさを楽しめると仕事もプライベートもよりうまくいくのかもしれない。
書籍情報
著者 スティーブン・デスーザ、ダイアナ・レナー
発行 2015年11月
「無知」の技法NotKnowing
PART1 「知識の危険性」
私たちは周囲からのプレッシャーを敏感に察知して、自分の力不足や無能ぶりを隠そうとする。たとえ答えを知らないときでも知っているふりをしたがるーあるいは反対に、ほかの人は知っていると信じたがる。専門家を探し、すべてを知っていると思い込む。証拠が正反対を示しているときでさえ、他人の確信を疑って自分で判断するよりも、偽りの確信に依存するほうを選ぶのだ。特に、自分より上に立つ者との関係において、この傾向は何より深刻に顕著となるのである。
- 人間の脳が最適な機能を果たすためには確信が必要
- 人間の脳は常に答えを求めている
- 人間はほぼあらゆる面で自分を「平均以上」とみなしたがる傾向がある
- 専門性を評価されている人間はその領域の外をしかりを見ようとしない。専門性が高くなればなるほど視野が狭くなる
- 「知っていること」に焦点を置くあまり、知っていることを疑ったり、知らないと認めたりすることができなくなる
- シンプルに説明できないなら、きちんと理解していないということ
- 能力が高くなればなるほど、知の呪縛に陥りやすくなる
- 知の呪縛とは、知識が増えることにより、その専門領域をシンプルに思考・説明できなくなる状態をいう
- 人は知識を与えられると、知識がないというのがどういうことか、想像できなくなる
- アンカリング・バイアス:既存の知識がアンカーで固定されてしまい、問題の本質が見えなくなること
- 知にしがみつき、意図的に目をつぶってしまうことで大きな弊害が生まれることがある
- 知識がありすぎるがゆえに進歩できないという、逆説的な状況が起きることがある
- 自分の中に確実性を見るときほど、人は責任者への依存傾向を強める
- 大丈夫だと安心させてくれると期待する
- 責任者は解決策を示したい衝動に駆られるが長期的に見るとそれらしい答えを提示することは部下の本当の進歩を阻んでいるのでやめたようがよい
- 何事も、師や先達の権威のみを根拠に信じてはならない。何世代も受け継がれてきたからという理由だけで、伝統を信じてはならない by仏陀
PART2 境界
岬にどう立ち向かうかー踏みとどまることを選ぶのか、背を向けて逃げ出すのかーその行動が、未知とのつきあい方を決める。未知が恐怖の塊となるのか、それとも可能性の宝庫となるのか、ここで決定されるのだ。岬、つまり既知と未知との境界線は、未知との関係性の「これから」を決める分岐点なのである。
- 人はいつでも、見慣れるものとの接触を避けたがる
- 未知を恐れる理由のひとつは、自分自身と向き合わざるを得なくなり、自分の弱さ、不完全さをつきつけられるから
- 人は、しらないという内面的体験と、有能という印象を維持したい外面的問題とのあいだで、葛藤を感じる
- 知らないと認めると無力になり、力や主導権を失ったことで痛烈な恥ずかしさにつながる
- 未知との境界線に立たされたとき
- 感覚は「足場がない」状況
- 一般的なサインとして人は恥ずかしい気持ちになる
- 対峙するのが面倒なので過小評価してしまう
- 「知らない」ことを恐れる
- 既知と未知との境界線に立たされたとき、自分はとっさにどんな反応をしてしまうのか。それを心得ていれば意識して境界線の向こうへ踏み込み、その先を探りながら新しいスキルや能力を育てていくことができる
- 「わからない」と認めるからこそ、ものを学べる。知らないという闇は、新たな光を呼び込む自由と余白を差し出している
- 既知のち漆器に縛られない余白へ踏み込む。知らないという視線で挑むことで先行きのわからない状況と向き合い、答えがない複雑な問題に取り組む
- 不可知の道を楽しむ
- 企業家精神とは、わからないもの、不確実なものを実現しようとする姿勢にほかならない
- 成功するチームや組織は未来の競争優位を発見するために知らないことを歓迎し、意欲的に取り組んでいる
PART3 「ない」を受容する能力
知らないということに対峙するとき、私たちは、これほどまでに強い勢力と戦わなければならにのだ。だとすれば、どうやって知らないことと向き合えばいいのか。未知を受け入れ、自分から進んで踏み込み、そこにあるものをせいいっぱいいかせているのだろうかときに贈り物の包装紙をやぶかぬまま、しらなままでいること自体に価値が生まれるかもしれないのだ
- ないを受容する力=ネガティブ・ケイパビリティ
- 知らない姿勢で対峙することを「初心」と呼び、その大切さを強調している
- これまで培った経験や知恵を捨てるという意味ではなく、新鮮な視点を塞ぐ壁にしてはいけないということ
- コントロールを捨てて信頼する
- 信頼と責任の意識があれば人間はよりよく働ける
- 専門知識は大事だが、自分が無力であるという事実もまた、同じように重要である
- 知らいないことを受け入れる
- ソクラテスは「私はわたしが無知であると知っている」と言った
- 科学者にとって「わかりません」は「私は自信があります」と同義語
- 自信がない人間は知っているふりをする
- 「わかりません」は「私を信じて大丈夫です」というセリフとも同義語
- 自分の知っていることと知らないことを区別し、相手と対峙できるのはすごいこと
- 「わからない」という言葉(問いかけ)は時に状況をおおきく前進させる
- 既知の知識を疑う行為を楽しむ
- 疑うことは可能性への入り口
- 見るために目を閉じる
- 知らない姿勢で挑むことによって、見ていなかった場所に存在する知に心を開く
- これは知らないでいることが秘める可能性のひとつ
- 見えない世界に踏み込むとき、一番してはいけないのは、コントロールできないものをコントロールしたがるエゴにしがみつくこと
- 使える感覚(視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚)を通じて情報を集める
- 4つの聞く
- 過去の情報をダウンロードしながら聞く
- ファクトを集めながら聞く
- 共感しながら聞く
- 聞きながら新たなものが生み出される
- 心を静かに落ち着かせながら、じっと内面を意識すること
- 問題を解くための時間が1時間あり、私の人生がその答えにかかっているのだとしたら、私は正しい問いを考えることに55分使う。正しい問いがわかれば、5分以内で問題は解決できるだろうbyアルバート・アインシュタイン
- 常に「既存の解決方法ありき」では、未知のものに出会った時に太刀打ちできない
- イントゥイット社では、はっきりした仮説の提示を求めるシステムを社内に構築し、「わからないこと」の受け止め方を教えることで、チームが未知の領域にも恐れず踏み込めるようにしてる
- 多様性や差異を内包する仕事環境は、イノベーションと創造性の基盤となる
- 対話のプロセスでは、既存の発想や見解をいったん「保留」する。答えを準備せず、ただ相手の言葉をじっくりと聞く
- ミスや失敗も成長の一部。そう信じて不安を捨てることができれば、たいていのことは受け入れられる
- 知らないということはスリリングでそのスリルが人生を価値あるものにする
- 実験的なことをしようとすると最初は「抵抗」にあう
- 地道に少しずつ歩を進め、歩み寄る以外の近道はない
- 一つ言えるのは、頻繁に実験するチームのほうがそうでないチームよりも高い業績を上げる
- 失敗を受け入れる(歓迎)。チームでも。自分自身でも。
- 早く失敗し、失敗から学ぶ
- 失敗とは不要なものをはぎとること
- 何が重要かを気づくために、失敗は必要不可欠
- 「どうしてこんなことをしているのか」と自問することもある。だが、答えはいつでも「やらない理由がどこにある?」しかない
- 愚者は己を賢いと思う。賢者は己が愚かであると知っているbyウィリアム・シェイクスピア
- ハングリーであれ。愚かであれ。byスティーブ・ジョブズ
- 未知に飛び込む自由は常に享受できるわけではない
- 自分自身の弱さや不安を他人に見せる
- 観察してみようという気持ちがあれば、世界は本当にたくさんのものを見せてくれる(見える景色が変わる)
- 誰かが勇気を出して自分の脆さを認める姿を見ると、それが刺激となって、ポジティブな流れ効果が起きる
- 思いやりと共感
- 共感は他人の立場に身を置く力
- 思いやりは自己と他者の感情・体験に対して自分から心を開くこと
- 自分に対して思いやりを抱けば苦しむ人に対しても思いやりを抱きやすくなる
- アンチ・フラジャイル(折れず、むしろのびやかに)
- レジリエンス(弾力性)の上位概念で、痛手を受ける前よりも強くなること
- 雑草魂。麦踏みにも似ている