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eクチコミと消費者行動 情報取得・製品評価プロセスにおけるeクチコミの多様な影響|読書メモ

2020年4月に刊行された書籍。インターネット上のクチコミが消費者心理と行動にどのような影響をあたえるのか、それはどのような場合に発生しうるのかを研究結果と共に説明された書籍。対面クチコミや広告波及効果との対比が説明されており、各章の研究結果も統一フォーマットなので非常に読みやすい。本書では一定条件のものと調査しているため、この結果が正しいとは絶対には言い切れないがプロダクト担当者やマーケティング従事者にとっては一読の価値があると思う。以下、振り返り用のメモ。

第1章 はじめに

  • eクチコミとはインターネットのクチコミのこと
  • 肯定的なクチコミ=正
  • 否定的なクチコミ=負
  • eクチコミは正と負、両方同時に露出する
  • eクチコミの正負比率が消費者行動に与える影響をモデル化し実証することが本書における研究目的
  • 対面クチコミは送り手から受け手へ直接のコミュニケーションを通して行われる
  • 正と負、いずれかがはっきりしており曖昧さは少ない
  • eクチコミは送り手と受け手はともに複数の場合があり、かつ、家族や友人に限らず他人にも到達する
  • 正と負が曖昧で受け手によって捉え方がことなることがある

1つのウェブページ上に複数のeクチコミが存在する状況において、多数の正のeクチコミの中に一定の割合の負のeクチコミが存在する場合の方が、負のeクチコミが全く存在しない場合より、消費者の評価するクチコミ。メッセージの信頼性やウェブサイトの信頼性が高いという興味深い結果を見出した。

第2章 クチコミ研究の源流

  • パーソナル・コミュニケーションが受け手の心理や行動に対して「影響」を与える現象を、「パーソナル・インフルエンス」と呼ぶ
  • パーソナル・コミュニケーションの方がマス・コミュニケーションよりも大きな影響を与えやすい
  • 消費者が重視する情報源は分野毎に異なるが特にファッションや映画、食料品での買物行動に関する選択に影響を与えやすい

広告とクチコミの影響を比較検討した結果、クチコミを通じて新製品を認知した消費者の方が、広告を通じて新製品を認知した消費者より、新製品を採用し、さらに他の消費者に対してその新製品のクチコミを発信する傾向が強いことが見いだされた

クチコミの送り手は、製品関与、自分自身への関与、他者への関与、および、メッセージへの関与によって、クチコミを発信することを動機づけられるということが見い出された。

  • 利他主義(世のため人のため)、自己高揚(承認)、企業支援(応援)、製品関与(ユーザーである意識)

問題の重大さ、不満足の責任の帰属、および、企業の苦情対応の知覚の3要因すべてが、負のクチコミの発信意図との間に正の相関を有するということが見い出された

eクチコミが製品の売上に与える影響を検討した研究として、Liu(2006)が挙げられる。彼は、映画に関するeクチコミに着目し、eクチコミの数及びeクチコミの正負の符号が、映画の興行成績に与える影響を検討した。
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分析の結果、各週の興行成績に対して、正のeクチコミ及び負のeクチコミの存在比率は優位な影響を与えなかった一方、eクチコミの数は正の影響を与えていた。すなわち、各週の興行成績は、正のeクチコミおよび負のeクチコミの存在比率ではなく、eクチコミの数によて規定されているということが見い出された。

  • eクチコミで購買意図に影響を与えるもの
    • eクチコミの数
    • eクチコミの正負の符号
    • eクチコミの正負の比率

第3章 研究1:負のeクチコミの正の影響が生起する条件Ⅰ

多数の正のeクチコミの中に存在する一定の割合の負のeクチコミが消費者の製品評価に正の影響を与える条件は、クチコミ対象製品が快楽財である場合だけでなく、専門性の高い消費者が属性中心的クチコミを読む場合もある

第4章 研究2:負のeクチコミの正の影響が生起する条件Ⅱ

多数の正のeクチコミの中に存在する一定の割合の負のeクチコミが消費者の製品評価に正の影響を与える条件は、クチコミ対象製品が快楽財である場合だけでなく、専門性の高い消費者が属性中心的クチコミを読む場合に、一定の割合の負のeクチコミが存在するウェブページを閲覧した消費者がその製品を高く評価するという新たな知見を提示することによって、1つのウェブページ上における負のeクチコミの存在が逆説的に正の影響を与えるさらなる条件を識別することに成功したと考えられる。

第5章 研究3:負のeクチコの正の影響が生起する条件Ⅲ

クチコミ・プラットフォームの種類がマーケター作成型である場合には、多数の正のeクチコミの中に一定の割合の負のeクチコミが存在するときの方が、負のeクチコミが全く存在しないときより、消費者のクチコミ対象製品への態度は高かった。一方で、クチコミ・プラットフォームの種類が非マーケター作成型である場合には、負のeクチコミが全く存在しないときの方が、多数の正のeクチコミの中に一定の割合の負のeクチコミが存在するときより、クチコミ対象製品の購買糸は高かった。したがって、多数のの正のeクチコミの中に存在する一定の割合の負のeクチコミが消費者の製品評価に正の影響のを与える第3の条件は、クチコミ・プラットフォームの種類がマーケター作成型である場合であると結論付けられた

第6章 研究4:負のeクチコミの正の影響がが促進される条件Ⅰ

  • 快楽財である場合、正のeクチコミの中に存在する一定の負のeクチコミが先頭に掲載されるときの方がランダムに掲載されるより消費者は製品を高く評価した
    • Amazonのレビューが正と負を両方トップに据えて絞り込みができるようにしている点は理にかなっている
  • 負のeクチコミがまとめて先頭に掲載されているときに正の影響が促進されやすくなる

第7章 研究5:負のeクチコミの正の影響が促進される条件Ⅱ

  • 第6章の結果と同様に負のeクチコミがトップに掲載されているときの方が正の影響が促進される

第8章 研究6:負のeクチコミの比率の負の影響が緩和される条件Ⅰ

クチコミ対象製品が探索財である場合、1つのウェブページ上に存在する負のeクチコミの比率増加に伴って、その製品に対する消費者の評価は、低下率を増やしながら低下した一方、クチコミ対象製品が経験財である場合、1つのウェブページ上に存在する負のeクチコミの比率の増加に伴って、製品に対する消費者の態度は低下した。したがって、1つのウェブページ上に存在する負のeクチコミの比率に従ってもたらされる負の影響が緩和される条件は、クチコミ対象製品の種類が探索財の場合であると結論づけられた。

第9章 研究7:負のeクチコミ比率の負の影響が緩和される条件Ⅱ

  • 消費者のブランド精通性が高い場合、1つのウェブページ上に存在する負のeクチコミの比率に従ってもたらされる負の影響が緩和される

第10章 研究8:eクチコミの正負比率と情報取得行動の関係

  • クチコミ・メッセージの正負のばらつきが消費者の情報取得行動に与える影響は、クチコミ・メッセージの訴求内容によて調整される
  • 便益中心的クチコミの正負のばらつきが大きい場合の方が、ばらつきが小さい場合より、消費者のクチコミ掲載ページへの情報探索意図が高かった
  • 一方、属性中心的クチコミの正負のばらつきが小さい場合の方が、大きい場合より、消費者のクチコミ掲載ページへの情報探索意図が高かった