アメリカでこの本が発売されたのは約21年前の2002年。かなり前の本なので正直どうなのかなと思いながら読み始めたけどなかなかよい内容だった。ナイキとスタバという短期間で世界的ブランドになった2社でブランディングに従事してきた著者の考えや提言はどれも本質的ですごく勉強になるし今でも通用する考え方だと感じた。
一方で、現在の市場を考えるとここまで悠長に構えていられない風潮(消費者も企業も)もありそうで、企業の思想やブランディング担当者の手腕が試される部分でもある。
実践書ではないので比較的抽象度が高い内容が多めだけどそこから自社に置き換えて具体的なイメージを作り施策に落とし込むことがきれば実務でも生かせそう。ただ、いきにありそれをやるのは難易度が高いので、まずはよいブランドを作り、育てるために大事な根っこの部分をきちんと理解するところからはじめていきたい。
章立て
- 序章 ブランド・マニアの告白
- 第1章 ネコも杓子もブランド志向
- 第2章 ブランドDNAを解読する
- 第3章 ブランドの幅を広げる
- 第4章 心と響きあうブランド
- 第5章 ブランドを汚染から守る
- 第6章 ブランド・リーダーシップ
- 第7章 企業の巨大化とブランディング
- 第8章 ブランドの未来
一般的に、ブランディングをしていく際の戦略は「攻め」と「守り」に分かれます。「攻め」のブランディングの基本は信用を築くことなので、おのずと長期戦になります。そして信用を築くには、企業の内側から変えていかなければなりません。
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だからこそ人に投資し、社員を教育していくことが一番重要なのです。
ウェブでの「守り」のブランディングは、「攻め」よりはるかに重要です。いかにマイナス要素を作らないかが、危機回避にもブランディングにもつながります。
どんなに金をつぎこんんでも愛着や信頼は買えない
長い年月のあいだに信頼を築くのは、結局、行動と品質なのだ。広告はせいぜい「すでにあるもの」を強化するだけで、理想を作り出す手段ではない。
過剰な広告がブランドにとって致命的な逆効果を招いた。
スターバックスは、品質を落としてメディア・キャンペーンにお金をかけるよりも、いい雰囲気の明るく清潔な店で客の好みに合わせたいつもおいしいコーヒーを出すことを選んだのだ。
どんなに優れた広告でも、存在しないものを作り出すことはできない。
ブランドとは、ありふれたものを取り上げ、それに価値や意味を高めるような改良を加えることである。
商品やサービスは、時代につれて変わっていく。が、顧客の心に残る経験は、最終的にブランドを定義することになる。
ブランドは記憶の総和
ナイキの経営陣は、エアロビクスを一時的流行にすぎないと見くびっていた。この高飛車な態度こそがナイキに壊滅をもたらすのではないかと、わたしは危惧していた。
どんなブランドも、核心部分に力の源となる本質を持っている。ブランドを大きくしようとする前に、それを理解する必要がる。
企業のリーダーが交代した場合、全社的にブランドがよく理解されていないと、交代と同時に遺伝子変異が起きる場合が多い。定義の甘いブランドは、次第に輪郭が崩れはじめる。
「ナイキとは何か?」あるいは「ナイキ・ブランドの本質とは何か?」といった根本的な問いが激しい緊張や論争の種となっていた。
ナイキ社内でスポーツVSフィットネスの論争が起こっていた時の話。これはナイキの在り方はもちろん今後の成長にも直結する部分のため、ナイキは後者を選んだ。付け加えると市場の拡大を選んだ。当時のナイキは陸上競技用シューズなどスポーツ市場で大成功を収めていたため、アスリートに特化した商品で勝負し続けたほうがよいという論調があった。一方で、アメリカ市場ではフィットネスが大ブームを巻き起こしており、スポーツと縁がない人々にも浸透していた。ナイキ社内ではフィットネス=軟弱というイメージがあり、そこに参入することはナンセンスという意見を持っている層が一定数いた。ただ、アスリート特化の場合、市場成長に限界があることやフィットネス市場に参入しないことで競合にシェアを奪われる危険が高いのも事実であったため、最終的にはフィットネス含め市場を広げるという選択をした。この意思決定の根本には「ナイキの世界には、あらゆる人の居場所がある」という過去に放映したCMの思想が込められていた。
さらに重要なのは、スターバックス・ブランドの本質を読み解くことによって、いかに魅力的に見えるチャンスでもスターバックス発展のコンセプトに合致しないものに合致しないものには手を出さない、という原則ができたことだろう
人々は、ただハーレーを買うのではなく、社会的・経済的階層を超えてハーレーの精神で結ばれた共同体の一員となるのだ。
バイク愛好家は帰属への欲求、あこがれ、個人主義と自由、に強く惹かれており、ハーレーはそれらを代表するブランドであるがゆえに多くのファンを抱え、愛され続けている
優れたブランドは、優れたモノを超越する。優れたブランドは、人間や場所や商品サービスに対する時を超えた探求を大切にする。意識するかどうかは別として、われわれは思考を刺激する経験、心をゆさぶる経験、成長を促す経験、人生を何らかの形で豊かにする経験を求めている。可能な限り、ブランドをそうしたプロセスの一部にしていく努力が必要だ。
優れたブランドを育てるには、たゆみない指導、長い先を見る目、ゆるぎない価値、そして適切で魅力的で利益の上がる商品やサービスが必要なのだ。さらに、前の各章でも述べたように、優れたブランドは商品やサービスを超越して消費者と個人的かつ情緒的なレベルで共鳴できる特質を備えていなければならない。優れたブランドは、あらゆる企業についてまわる「人間性」という特質をうまくいかしている。そして、企業の人間性とは、企業を動かす人々の反応なのである。
ブランドを社内で気にかけている人間は?ブランド・リーダーシップの所在は?ブランドのメッセージと価値を統一する責任者は?
商品がつまらなかったり顧客の期待に応えられなければ、広告やプロモーションにお金をかけて「クール」を装ってみたところで、意味がない。
売り上げを増やすのもメジャーになる道だが、世の中の役に立つのもメジャーになる道だ。
ブランディングを行う上で必要な土台
- 消費者に訴える強い商品
- 機能するビジネスモデル
- クリエイティブを検討するうえで常識をわきまえること
強いブランドを育てる8ヶ条
- ブランドのDNAを定義し保護する
- ブランドを賢く拡張して企業を育てる
- 顧客とのあいだに商品やサービスを超越した情緒的きずなを築く
- 時代を超えて価値の変わらなぬものの擁護者となる
- 企業の大きさをマイナスではなくプラスに活かす
- 企業が持つ大きな力をよりよい目的に役立てる
- 自社のブランド価値を組織全体に浸透させる
- ブランドのよき育ての親になる
ブランドを支える七つの価値
- シンプルであること
- 気長であること
- 適切であること
- 利用しやすいこと
- 人間的であること
- 広範に露出すること
- 革新的であること