ジャック・アタリ氏が2017年に執筆した書籍。読んだのは少し前だがあらためて読み返してみると2017年時点で先を見越した意見が書かれていることに驚かされた。予測なので当たっていること、そうでないこと、まだわからないことが含まれているが、大筋はジャック・アタリ氏の予測の通りになっているように感じる。コロナが長引いているこの世界で、しっかりと現実を見つめ、その上で、自分自身がどう考え、行動するべきかを問いかけられる内容だった。印象に残った部分を以下にメモしておく。
第一章 憤懣が世界を覆い尽くす
- 世界的に生活水準は上がり平均寿命が伸び、貧困層も減りつつある
- テクノロジーの進化により、面倒や手間のかかる苦役は機械が代替してくれる
- 第一章ではこのように、順調によい方向に世界が向かっているように感じられる事象からスタート
- しかし、実際は逆で多くのことが悲惨な状態になりつつあるとジャック・アタリ氏は警鐘を鳴らす
- 高齢化が進み、医療サービスの乏しい途上国では人口増加に対して十分な対応がとれていない
- 地球環境の悪化も申告で大気汚染や土壌侵食による被害は確実に地球を侵食している
- 気候変動により世界平均気温は1880年から2012年にかけて0.85度上昇し地球温暖化の傾向はとどまることはない
- これらの影響は農業の暗い未来を示している。世界規模で米、トウモロコシ、小麦の生産量が低下し特にアフリカ諸国での穀物の生産量は低迷している
- 追い打ちをかけるようにモンサント社などが種子市場を掌握し最終的なツケを消費者に支払わせようとしている
- 技術が進歩しても実は労働生産性はさほど向上しておらず結果として経済成長は1960年から1974年までの基幹は平均年率5.2%だったのが2002年から2015年までの基幹は平均年率2.8%と減速していることがわかる
- 冨の偏差も加速しており、クレディ・スイスの「2015年度グローバル・ウェルス・レポート」によると、富裕層上位10%が世界の87.7%を所有しているという。これはなかなか衝撃的な数値である
- 大規模に適用されるイノベーションを手中に収める者に冨は集中し技術が進歩すればするほど労働者の実労働時間と賃金の隔たりは大きくなる
- GAFAMによる一極集中やウーバーと労働者の関係が思い浮かぶ
- その結果、先進国では中産階級が減り、貧困化に進むのではと考えられている
- SDGsの筆頭に挙げられている貧困問題についてもまだまだはびこり続けてえいてアフリカのサブサハラ地域の最貧困数は1990年代の2億8400万人から2015年の3億4700万人へと増加している
- また、公衆衛生設備を利用できない人々も10億人はいると言われている
- 教育システムも世界的に見てもうまく機能していない
- 先進国では学校に通う意義が疑われ、スウェーデンは教育システムのモデルとされてきたが生徒の読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3つの分野の点数は10年以上前から下がっている
- 途上国では学校に通えない子供が5700万人はおり、そうした子どもたちの半数以上はサブサハラ地域で暮らしている
- これらはいわゆる貧困の連鎖であり、教育不足が仕事に影響を与え、少ない所得が貧困を再生産している状況から脱するのがいかに難しいかをあらわしている
- 医療システムも世界的にみて財政難が理由で医療サービスの機能不全が起こっており、そういった地域では疫病や伝染病との戦い困難を極めている
- 国家と企業の関係値も変わりつつあり、一企業が巨大な資本と権力を手に入れたことで国に対する忠誠心は薄れ、租税回避や情報開示に従わない例などが頻発している
- これはテクノロジーの進化に対して法整備等が追いついていないことが要因として上げられる
- 社会と家族の関係性も弱まり、そうなるとカルト集団などが幅を効かせ始める
- 特に高齢者や生活に不安のある低所得者層はカルト集団の被害にあいやすいとの調査レポートもある
- カルト集団が先鋭化すると犯罪組織や非国家組織に発展する可能性があり、集団テロ事件など世界を揺るがす事件を起こす危険性をはらんでいる
- 社会への不安や鬱憤は怒りを醸成する。そうなると、人々の怒りを利用して自身のパワーに転換しようとする独裁者があらわれ、大きな事件を起こしてしまうかもしれない
第二章 解説
自由を断念することなく「大惨事」を回避するための二つの解決策
一つめは、市場が解決してくれると期待し続けることだ。市場は、イノベーションをカスタマイズされた財やサービスの開発に導く。市場のおかげで、われわれは希少性や死から逃れられる。誰もが時間から解放されるのだ。
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二つめは、人類の存在意義を維持することである。それは未来の不死テクノロジーに頼ることではない。世界は、エコロジー、経済、公衆衛生、政治など、あらゆる側面において相互依存を強めている。よって他社の失敗で利益を得るものは誰もいないと悟ることが重要である。人類のサバイバルの鍵となるのは利他主義なのだ。
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第三章 九九%が激怒する
- 今後15年で人口学、テクノロジー、イデオロギーの大変動が生じることは間違いない
- それらの大変動を考慮すると自由、市場、テクノロジ-の威力だけで平和で豊かな暮らしと社会的な調和が回復する可能性がある
- それを良くするか、悪くするかはわれわれ人間次第
- 2030年までに考えられる変化
- 健康:死が遠ざかる。遠隔医療が発達しインターネットに接続された薬箱により服薬がスムーズになり、患者が処方に従わない場合は薬箱が意志や保険会社に通報する
- 教育:バーチャル・リアリティ眼鏡により仮想世界で世界中の教示とつながる。ゲームが知識習得を助ける
- 労働:ロボットが自然言語を習得し、人間でなければできないと思われていた労働までロボットが行う。結果従来の企業は破壊され、労働のあり方が変質する。一人でいくつもの役割をこなし、委託になり、働くひとたちはノマド化し、プロジェクトメンバーは小さなグループの集まりで構成される
- 副業やパラレルワーク、DAOなどは既に広がりはじめている
- 住宅:家全体が3Dプリンターで作られる。あらたなセメントが開発され建物の耐用年数が10倍程度になる。住宅業界は激震に見舞われる
- 水資源:海水炭素水化設備により飲料水の利用事情は大きく変化する
- 農業:IOTにより生産性が向上する
- エネルギー:エネルギーはスマートメーターによって管理され、再生可能エネルギーの開発が進む
- 自動車:大半が自動運転車に置き換わり、燃料はガソリンから電気への比率が増える
- 航空:リモコン操作での飛行が可能になる。パイロットが不要になる
- 娯楽:仮想現実により産業が一変する
- 芸術:仮想現実により顧客は作品との対話が容易になる
- 共有経済:金融、求人情報のオンライン提供、宿泊、自動車、音楽や動画のストリーミングという5つの主要分野の市場規模が30倍になる。共有と利他主義が同盟関係を強固にうする
- リサイクル:ゴミのリサイクルが進み一次産品の生産量は減少する
- 水資源の枯渇
地球規模で一致団結した行動を起こさなければ、人類は深刻な水不足に悩まされる。
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2030年までに水の需要は、35%増加するからだ。世界の水資源の一人当たりの年間利用可能量は、2030年にはすくなくとも5100立方メートルにまで減るだろう。ちなみに、1950年はその3倍、2016年はその2倍だった。
ようするに、2030年、世界人口の3分の2は水不足に悩まされる。水不足の理由は、汚染された水は生活用水に適さないからである。
水は、石油をはじめとする一次産品よりも希少な財になるのだ。
個人の自由が行き過ぎると、個人的な楽しみが際限なく正当化される。そうなると誰も自分のことにしか関心を抱かなくなる。
- 世界大戦を勃発させる六つの起爆剤
- 異常事態
人類を滅亡させる大惨事は他にもたくさんある。それらは2030年以前に明らかになるだろう。たとえば、数十億人の人々が水不足に襲われる、大勢の人々が命を落とすまで治療法のわからない新型ウイルスが発生する、地球温暖化が予想を上回る速度で進行する、遺伝子工学の実験室で取り返しのつかない失敗が起きる、人工知能が人類を消滅させる決定を下す、狂った武器商人が(政府あるいは民間の)顧客に掘り出し物の兵器を使うようにそそのかすなどだ。2030年までにこれらの異常事態のいくつかが起こるかもしれない。そうなれば20世紀に二度起きた世界大戦が再び勃発する恐れがある
第四章 明るい未来
集団の活動に大きな変化が必要な際には、すべては必ず個人が変わることから始まる。個人の内面が変わらなければならないのだ。自分自身に働きかけるとは、世界がまだ暮らせる場所であるようにするために、世界に働きかける心構えをもつことである。このようにして、自分自身に働きかけること自体が、世界に対して行動を起こすことだと気づくはずだ。
- 自分自身に働きかける方法
- 1.自分の死は不可避だと自覚せよ
- 2.自己を尊重しろ、自分自身のことを真剣考えろ
- 3.変わらない自分を見つけろ
- 4.他者が行おうとすること、そして世界の行方につちえ、絶えず熟考しながら自分自身の意見をまとめろ
- 5.自分の幸福は他者の幸福に依存していることを自覚せよ
- 6.複数の人生を同時かつ継続的に送る準備をせよ
- 7.危機、脅威、落胆、批判、失敗に対する抵抗力をつけろ
- 8.不可能なことはないと思え
- 9.実行に移す
- 10.最後に、世界のためにも行動する準備をせよ