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読書記録と日常のあれこれ。

影響力の武器[第三版]なぜ、人は動かされるのか|読書メモ

2014年7月に初版が発売され、2021年6月時点で31刷!めちゃくちゃ読まれている!

著者のロバート・B・チャルディーニ氏はアリゾナ州立大学の心理学部の名誉教授で、過去、自身が騙され続けてきた実体験等から心理学的観点で本書を執筆。

人間の行動心理の基本的な原理を類型化し、なぜ人は動かされるのか?という点を実例を交えて丁寧に説明されている。

 

 

以下、自分用メモとして。

 

第1章 影響力の武器

文明が進歩するということは、自分の頭で考えなくても様々なことが出来てしまうということである byアルフレッド・ノース・ホワイトヘッド

 

・「カチッ・サー」反応(自動的反応)とは、人が何かしらの判断や意思決定をする際に発動するやっかいな反応。自動的反応は影響力の武器を他人から行使された際に無意識もしくは意識的に思考停止状態にさせられ、騙されたり、意図しない意思決定をしてしまう

・なぜ、自動的反応が起こるかと言うと、考え悩むのは労力がかかるため、過去の情報や周辺情報で都合のよいものがあればそれらと紐付けて無理やり意思決定をした方がラクだから。そんな人間の性質を利用して、詐欺やそれに近い行為を行おうとしている輩もいたりするので注意が必要

・人間の知覚にはコントラストの原理というものが働いており、順番に提示されるものの差異を私達がどう認めるかに影響を与える。例えば、家の内見で1件目にボロい家を見せられた後に、そこそこの家を見せられると当然2軒目の方がよく見える。不動産屋が買わせたいのが2軒目の家だとすると当然成約率もあがる、というやり方があったりする

 

第2章 返報性 昔からある「ギブ・アンド・テイク」だが…

負債は必ず返済しなさい。神様が勘定書を書いたのだと思えばいい  byラルフ・ワルド・エマーソン

 

・「他人がこちらに何らかの恩恵を施したら、自分は似たような形でそのお返しはしなければならない」というルール

・やっかいなのはこのルールが人間社会や文化に広く深く浸透していること。すなわち、返報性のルールを守らない人は、不義理であり、恩知らずであり、たかり屋であるとみなされてしまう点にある

・また、これは自身と面識の無い人や嫌いな人から受けたとしても、このルールに縛れてしまい、返報義務を追うことになる。このルールを悪用した例としては悪徳な訪問販売、寄付団代などの話しが本書では記載されている。面白いのはそのような行為がはるか昔から行われていて、本質的には変わらない手口で今も行われているということ。それだけ強力なパワーを持つルールだということがわかる

・広告手法としては無料モニターや試供品がその例で、一度使わせることで返報性のルールを適用させようとしている。スーパーの試食などはその典型例

・応用テクニックとして、ドア・イン・ザ・フェイステクニックというものがあり、これは一度断らせたあとに二番目の要求を飲ませようとする手法。交渉のテクニックとして使われ、あえて無理な依頼をして断りを引き出し、その後、飲めなくもない要求をすることで容易にYESを引き出せるというもの

・ドア・イン・ザ・フェイステクニックを使われると、それをされた側にも責任感が生じる。一度YESと言ったのだから、その取り決め内容はキッチリと守る。また、その約束を守ることで満足感を得てしまうため、同様の手口にハマりやすいという性質もあるので注意が必要

 

第3章 コミットメントと一貫性 心に住む子鬼

最後に断るよりも最初から断るほうが簡単だ byレオダルド・ダ・ヴィンチ

 

・一度決めたことに対しては、自分の内からも外からも、そのコミットメントと一貫した行動をとるように圧力が掛かる

・そうなると、途中で間違いがあったとしても軌道修正ができず、無理矢理にでもコミットメントしようとしてしまう

・なぜ人は一貫性を保とうとするのかというと、これも人間社会のルールや成り立ちと深く関係している。シンプルに言うと一貫していることはいいことで一貫していないことは悪いこと、と思われているから

・一貫していない人は支離滅裂、裏表がある等と思われてしまうため、言語一致、初志貫徹、論理性、合理性等をベースに一貫性を持った言動をし、誠実であろうとしてしまう

・それ自体は悪いことではないもも、囚われすぎると騙されてしまったり、大きな失敗を起こしてしまう可能性がある

・また、一貫性をもつことは実は簡単なこととも書かれている。なぜなら、「考えるという本当の労働を避けるためなら、人はどんな手段にも訴える」し、一貫性という殻に閉じこもることで理性の激しい攻撃を受けないからである

フット・イン・ザ・ドア・テクニックとは最初に小さな要求を飲ませ、あとから関連するより大きな要求を通すというやり方

・コミットメントは広く発信することでその呪縛が強くなる

・何かを得るために大変な困難や苦痛を経験した人は苦労なく得た人よりも、得たものの価値を高く見積もるようになると言われている。加入儀式の厳しい部族であるほど新規加入者の集団に対するコミットメントを高めるのもその一例である

・人は自分が外部からの強い圧力なしに、ある行為をする選択を行ったと考えるときに、その行為の責任が自分にあると認めるようになる

・ローボール・テクニックは、まず相手に有利な条件を提示し、購入意思を引き出し、決定がなされた後にその条件をなかったことにしたり改悪するという手段。一度買うと決めたことにより意思決定を支える根拠を無理やり作り出し、改悪条件でもそのまま購入してしまうという。例えばカーディーラーでの見積りがあとから変更になったり、車両代は安いがオプションをもられて結局高くなるケースも同様のテクニックが使われている

 

第4章 社会的証明 真実は私たちに

みんなが同じ用に考えているときは、誰も深く考えていないときである byウォルター・リップマン

 

・特定の状況で、ある行動を遂行する人が多いほど、人はそれが正しい行動だと判断する

・ほかのみんながやっているならそれは適切だとみなしてしまう。周りと反対の行動をとることがリスクだと感じてしまう

・どんな考えでも、それを正しいと思う人が多ければ多いほど、人はその考えを正しいを見ることになる

・集合的無知とは、周囲に沢山の人がおり、そこで最悪の行為(例えば喧嘩等)が行われていた場合、周囲の人が傍観していると自分もそうしたほうがよいと判断してしまっている状態のことを指す。「誰も関心を払っていないのだから、悪いことは何も起こっていない」と判断してしまう。傍観者にありがち?

・社会的証明は不確かさがある状況でより強く働く。どう振る舞えばよいのか確信が持てない場合、人は普段より一層他人の行動を参考にして自分の行動を決めようとしてしまう

・また、類似性も社会的証明に影響を与える。なぜなら人は自分と似ている人の行動を真似したり参考にしたりするからである

・いわゆる模倣犯も社会的証明が作用した一例となる

 

第5章 好意 優しそうな顔をした泥棒

法廷弁護士はの最も大切な仕事は、依頼人陪審員から好かれるようにすることである byクラレンス・ダロウ

 

・一般的に、人が最も頼み事を聞いてあげたいと思うのは、相手をよく知っていて、かつ、その人に好意を持っている場合である

・タッパーウェア・パーティと呼ばれる販売手法では、参加者に何かしらの景品を与え(返報性)、使用経験者に便利な点などを話すよう促し(コミットメント)、購買者は販売が始まると自分と似たような人がそのタッパーを欲しがっているので、良い物に違いないと考えるようになる(社会的証明)。また、重要な点として、友人からの紹介や口コミ起点で行われるこの手法では好意や友情の圧力が大きく働き、いやいやでも参加し、欲しくもないのに購入してしまうことがある

・寄付の依頼が友人知人の場合、断りにくくなるのも好意の影響が大きい

・セールスマンは新規顧客を見つけるため、顧客からの紹介を引き出し、エンドレスチェーン(無限連鎖)という状態を作ることを目指している。これも好意の力を利用した手法

・人は自分に似ている人を好む。この法則は意見や性格特性、経歴、ライフスタイルなど、どのような領域の類似性においても当てはまる

・人がお世辞を言い、親しげに接してくるときは、その人から何かを引き出そうとしている可能性が高い

・人は他者からの称賛を信じ、それを言ってくれる人を好む傾向にある

・チーム力で考えると、メンバー間の絆が堅い方が、より高い力を発揮する。チームの絆を高めるためには共通の目標に向かって力を合わせ、前進していく行為が有効

・警察の取り調べの怖い刑事とやさしい刑事も好意と知覚のコントラストの原理を利用している。最初に怖い刑事が怒鳴る、あとからやさしい刑事が怖い刑事をなだめ、やさしく接したり、司法取引(アメリカの場合)に応じる代わりに罪を軽くする(仲間だと思わせる)ような発言をすることで自白や有力な証言を得るというもの

・逆に、悪意は相手に嫌われる。たとえそれが本人起因の事象でない場合でも。例として、天気予報士は天気が外れると視聴者から大クレームを受ける。これは悪い知らせを伝えるものは疎まれる典型である。これは連合の原理と呼ばれる

・連合の原理は広告でも使われ、商品と名声を紐付ける。例えば、プロスポーツ選手と栄養ドリンクを紐付け、CMを流すのはまさに連合の原理そのものである

・他の全ての条件が同じであれば、人は自分と同じ性別、地域、文化の人を応援する。その人が証明したいと思っているのは、自分が他の人より優れているということ。応援する相手が誰であれ、その相手は自分の代理になる。そして、その人の勝利は自分の勝利も同然。このような観点からすれば、スポーツファンの情熱にも合点がいく。試合はその固有の形式や芸術性を楽しむだけの娯楽ではなく、そこには自己が賭けれていることに気付く。だからこそ、群衆は地元チームの勝利にいつも貢献してくれる人をあれほど崇拝し、多大な感謝を示す。その同じ群衆が、敗北に関わりを持った選手やコーチ、審判員に対してしばしば凶暴な振る舞いに及ぶのもこうした理由によるものと言われている

・身体的魅力はハロー効果を生じさせ、才能や親切さや知性といった他の特性に関する評価を高めている

 

第6章 権威 導かれる服従

専門家に従いなさい ウェルギリウス

 

・人は権威に対して義務感を抱く。ミルグラムの実験では、人は権威者の命令にはとにかく従おうとするということが証明されている

・この考えは宗教的な教えにも通ずる

・権威者の命令に従うべきかいなかについて、人はそこまで悩むことはない。なぜならそのほうが当たり前だと考えており、また、悩むことが面倒だと思っているから。まさに第1章のカチッ・サー反応が働いている状態と言える

・身近な例では医者と患者の関係がある。患者は、医者の診断を疑うことはほぼない。というか疑いようがない。その裏には権威が大きく関係している

・また、同じ発言を権威者と非権威者がした場合、前者の方が間違いなく説得力が高い

・重要なのは中身よりも外見で◯◯専門家等の肩書があるだけでも権威の力は発揮される

・高名な肩書をもっていると身長が実際よりも高く知覚されることがある

・権威は謙虚な誠実さに対しても発揮される。例えばレストランでウェイターにAという料理の良し悪しを聞いたところ、今日の仕入れ状況からはおすすめしないと言われ、代わりにBというより安価な料理をおすすめされたとする。この時点で客はウェイターに対して誠実だという印象をいだき、かつ、この店の料理に対して詳しい人、という印象を持つ。その結果、余計に料理を頼みたくなったり、チップをはずませたり、といった事象が実際の例として上げられている。誠実とわかった専門家ほど信頼できる人間はいない、ということである

 

第7章 希少性 わずかなものについての法則

何かを愛するには、それを失う可能性を実感すればよい byG・K・チェスタトン

 

・少ないものがベスト、失うことはワースト

・手に入りにくくなるとその機会がより貴重なものに思えてくる、というのが希少性の原理である

・ある品物が少なくなりつつあるということは、それだけの価値があるということになる

・人は制限に弱い。時間制限、数量制限などはその典型例である

・人はすでにもっている自由を失うことに大きな抵抗を持つ

・すでにある特権を保持しようとするとこの欲求こそ、自らの自由の現象に対する人々の反応を説明するために心理学者ジャック・ブレームが提唱した、心理的リアクタンス理論の中核と言われている

ロミオとジュリエットの物語も希少性が関係している。はじめからなんの障壁も無ければ、二人の愛はあそこまで燃え上がっていなかったと考えられる

・情報の希少性さえ高ければ、私達はそれが検閲を受けたものでなくても価値を置くようになる



第8章 てっとり早い影響力 自動化された時代の原始的な承諾

私は毎日、すべてに置いて良くなっていく byエミール・クーエ

私は毎日、すべてにおいて忙しくなっていく byロバート・チャルディーニ

 

・現代生活では情報が溢れ、選択肢が拡大し、知識が爆発的な勢いで増加している。現代生活の形態が変化し、ペースが加速度的に速まってきたことで、注意深く分析する機会が失われつつある。そのため、別の意思決定方法(信頼、信用など)に頼りがちになっている

・意思決定や承認を引き出す要因のうち、最も信頼性が高く、頻繁に使われるものとして、コミットメント、返報性、社会的証明(類似性)、好意、権威、希少性などが上げられる

・私達が思考の近道によって得られる利益を失わずにいるためには、相手の好意と悪意を注意深く見抜く洞察力が必要となる

 

雑感

人は心のスイッチを押されると、意図せず、動いてしまう。たとえそれが論理的には受け入れがたいようなことでも相手の意のままに動いてしまう。日常を振り返ると、影響力の武器が使われているな、と感じるケースはすごく多い。訪問販売、スーパーの試食、友人から進められたモノ、権力者からの発信への応答等がそれらにあたる。

相手が善意であればよいのだが、善意の被った悪人がパワーを行使しようとしている際は注意が必要だし、回避しなければならない。でも、なかなか見破れなかったりするのだと思う。その証拠に現在でも詐欺事件は無くならないし、グレーな謳い文句で商売をしている人も多く感じる。

影響力の武器の原理を理解しておくことで、仕事を上手く進められる可能性は間違いなく上がりそうではある。相手を動かすというよりも、しっかり納得して動いてもらうために、使えるモノは全て使い、誠実に向き合う姿勢を持ち合わせていれば全然良いと思う(良心を忘れないこと)